被相続人の生前に相続放棄をすることはできるか

文責:所長 弁護士 鳥光翼

最終更新日:2024年10月17日

1 被相続人の生前の相続放棄の可否

 ご家族が多額の借金を抱えている場合などには、亡くなる前でも相続放棄したいとお考えになる方もいらっしゃるかもしれません。

 結論から申し上げますと、被相続人の生前に相続放棄をすることはできません。

 あくまでも、相続放棄は相続人となった方のみが行える手続きであるためです。

 もっとも、被相続人がご存命のうちから相続放棄を検討されている方は、相続が発生した後のことについて、何らかのご不安や懸念点をお持ちでいらっしゃるかとも思います。

 そこで以下に、相続放棄が被相続人の死亡後にしかできない理由と、被相続人の生前にできることについて説明します。

2 相続放棄が被相続人の死亡後にしかできない理由

 単純な法律論として、相続放棄は被相続人の「相続人」が、「相続の開始を知った日から3か月以内」に行う手続きとされています。

 相続の開始とは、被相続人が死亡したこととほぼ同じ意味であると考えて差し支えありません。

 そのため、被相続人の生前に相続放棄をすることはできないということになります。

 家庭裁判所がホームページで提供している相続放棄申述書の雛形にも、被相続人の死亡日を記入する欄があります。

 相続放棄が被相続人の死亡後にしか行えないようになっているのは、推定相続人の方が被相続人の生前に、力づくで相続放棄をさせられてしまうことを防ぐためともいわれています。

 たとえば、1人の相続人が遺産を独占するために、生前から詐欺や脅迫などの手段を用いて他の相続人に相続の権利を放棄させようとするようなケースを防ぐためです。

 なお、混同しやすいものとして、「遺留分の放棄」という制度があります。

 遺留分の放棄は生前に行うことができますが、相続をすることが前提となりますので、相続放棄とはまったく別の手続きになります。

3 被相続人の生前にできること

 被相続人がお亡くなりになり、いざ相続放棄の手続きに取り掛かろうとすると、いくつかの問題に直面することがあります。

 相続放棄は、相続の開始を知ってから3か月以内に行わなければならないため、迅速に対応することが必要になります。

 また、法定単純承認事由という、相続放棄が認められなくなってしまう行為も存在するため、これらの行為を行ってしまわないように注意する必要もあります。

 法定単純承認事由の代表的な例として、被相続人の所有物を処分してしまう行為が該当します。

 そのため、相続放棄をする場合、被相続人が亡くなった後は、その所有物を処分することは極力避けるべきです。

 もし処分が必要なものがある場合には、被相続人となる方の生前に処分しましょう。

 特に大型の家具や自動車などの処分には時間がかかるため、できるだけ早い時期から処分に着手した方が良いといえます。

 被相続人の名義で賃貸借契約や電気、ガス、水道の契約をしている場合で、同居親族がいる場合には、生前から同居親族に契約の名義を変更させておくことも大切です。

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